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福岡高等裁判所 昭和26年(ナ)5号 判決

原告 春田春義

被告 長崎県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「昭和二十六年四月三十日執行の長崎県上県郡選挙区における長崎県議会議員選挙の効力につき原告のなした異議申立に対し同年六月十三日被告委員会がなした決定はこれを取消す。右選挙はこれを無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として原告は昭和二十六年四月三十日執行せられた長崎県議会議員選挙につき同県上県郡選挙区より立候補したものであるが、同選挙においては定員一名に対し原告、及び訴外宮原幹愛、佐護次雄、武末修の四名が立候補し開票の結果同選挙区選挙会において右宮原幹愛を当選人と決定した。而して原告は同年五月十一日被告委員会に対し同選挙区の選挙は無効であるとして、右選挙の効力に関し異議の申立をなしたところ、被告委員会は同年六月十三日原告の異議申立を棄却する旨の決定をなした。然しながら右選挙は次にのべるような理由により無効であつて被告委員会の決定は不当であると思料する。即ち原告は福岡市に居住していたが木炭販売の事業のため本籍地である長崎県上県郡仁田村大字飼所に住所を定め福岡市の住居を営業所とする必要を感じ、右本籍地に住宅を構え荷物等を送付していたが、偶々本件選挙に立候補を決意し昭和二十五年十一月二十五日福岡市より右本籍地に転入手続を完了し同時に同所に於て米穀の配給を受けるに至つた。よつて原告は同年二月十六日仁田村選挙管理委員会に対し補充選挙人名簿に登録を申請したところ、同委員会は原告が仁田村に住所を有しないとして登録を拒否したので同年四月三日同委員会に対し異議の申立をなすと共に翌四日右選挙に立候補の届出をなして選挙運動を開始した。然るに同年四月十九日右仁田村選挙管理委員会は原告の異議申立を却下する旨の決定をなし且つこれを公表し、一方長崎県上県郡選挙区選挙長永礼正治は直ちに管下町村の選挙管理委員会に対し原告には被選挙権がないから原告に対する投票は無効である旨通知公表し、以て確定的に原告に被選挙権がないかのように一般選挙人を誤信せしむる処置をなし、又仁田村選挙管理委員会の委員及び本件選挙事務関係者である仁田村役場吏員の一部の者は前記宮原候補を当選せしめるため、ことさらに原告に被選挙権がない旨を選挙人に流布宣伝し以て原告の選挙運動を妨害した。元来被選挙権を有するや否やの資格要件中住所の有無の認定は選挙会において決定せらるべきものであつて、選挙期日以前に於て原告に被選挙権がない旨を公表することは原告の正当な選挙運動を妨害するものであつて許されないところである。以上の如く原告は引続き三ケ月以上前記仁田村に住所を有し、被選挙権を有するに拘らず、本件選挙管理者に於て原告に被選挙権がない旨を選挙期日前に一般選挙人に対して公表し、原告の選挙運動を妨害したのは明らかに選挙の管理執行に関する規定に違背するものであり、選挙の結果に異動を及ぼす場合に該当するから、右選挙は無効であつて被告委員会の決定は取消さるべきであると述べた。(立証省略)

被告委員会は主文同旨の判決を求め原告主張事実中本件選挙の執行より本件提起に至るまでの一連の経過的事実はこれを認めるが、原告が本件選挙当時仁田村に住所を有していたとの点並びに上県郡選挙区の本件選挙に原告主張のような違反行為のあつたことはこれを否認すると述べた。(立証省略)

三、理  由

本件選挙の執行より本訴提起に至るまでの一連の経過的事実は当事者間に争のない事実である。

而して原告が本件選挙の無効原因として主張する要旨は、上県郡選挙区の右選挙管理機関たる同選挙区選挙長及び仁田村選挙管理委員会又は右選挙事務関係者たる同委員及び仁田村役場吏員に於て選挙期日前に原告に被選挙権がない旨を一般選挙人に対し公表乃至流布したというにある。

惟うに被選挙権の有無就中住所の有無の認定は開票手続に於て選挙会が決定すべき事項であつて、選挙管理機関又は選挙事務関係者が選挙期日前に特定の候補者に被選挙権がない旨を一般選挙人に公表するが如きはその候補者の選挙運動を著しく妨害する結果を招来し、選挙の自由公正を害するから当該候補者が真実被選挙権を有していたと否とに拘らず、かかる行為は選挙の管理執行に関する規定に違反するものといわなければならない。

よつて原告主張の如き違反事実の有無について検討するのに、原告主張事実中仁田村選挙管理委員会が原告の補充選挙人名簿登録の申請を拒否し、且つ昭和二十六年四月十九日原告のなした右登録拒否に対する異議申立を却下する旨の決定をなしたことは弁論の全趣旨に徴し、被告委員会の認むるところであるが、上県郡選挙区選挙長及び仁田村選挙管理委員会の委員又は同村役場吏員の一部が原告に被選挙権がない旨を選挙期日前に一般選挙人に対し公表し又仁田村選挙管理委員会に於て前記異議申立の却下決定を公表した旨の主張事実については、右主張に符合する証人春田兵衛、春田栄、糸瀬長光の各証言、原告本人の供述はいずれも後記証拠に照して措信し難く、原告提出援用にかかる爾余の全証拠によるも右主張事実を確認し難い。却つて証人惣島康仁、中村保の各証言によれば原告主張のような違反事実はなかつたことが認められる。尤も成立に争のない甲第三十五号証の一、二同第三十六号証によれば、上県郡選挙区選挙長は昭和二十六年四月二十日附文書を以て管下各町村選挙区管理委員会委員長及び開票管理者に宛て「原告に基本選挙人名簿及び補充選挙人名簿のいずれにも登録されないことに確定したので原告の氏名を記載した投票は無効投票であるから、開票録の記載については無効投票の内訳欄中「被選挙権のない候補者の氏名を記載したもの」の欄に記入されたい。」旨を通達したことが認られるけれども、右通知は一般選挙人に公表するためになされたものではなく、選挙長より管下の選挙管理機関に対し内部関係に於て原告に対する投票の取扱方を指示したものであることがその文面自体により明らかである。ただ被選挙権は選挙人名簿の登録とは全く無関係であつて、選挙人名簿に登録せられない者でも選挙期日に被選挙権を有するものは有効に当選人たり得べく、而して被選挙権の有無は開票手続に於て選挙会によつてはじめて判定せらるべき事項であるから、前認定の如く原告の補充選挙人名簿登録拒否に対する異議申立が仁田村選挙管理委員会によつて、却下されたからといつて直ちに原告に被選挙権がないものとして選挙期日前に斯様な通知をなすことは妥当を欠く嫌いがないでもないが、然し右のような通知をなしたことが選挙の自由公正を害するものとは認め得ないから、これを以て選挙の管理執行に関する規定に違反するものとはなし難い。さすれば上県郡選挙区の本件選挙には何等違法の廉がなく、右選挙は固より有効であつて被告委員会の決定は正当であるから、原告の本訴請求は到底失当たるを免れない。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小野謙次郎 桑原国朝 中園原一)

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